生命保険の不都合な真実」を読んで

朝日新聞柴田記者の生命保険の不都合な真実を読みましたので感想文です。
本書では、ざっくりいうと直近の生命保険業界を囲む以下のそれぞれの話題が、非常に詳細且つ足を使った取材の基に展開されています。

  • 外貨建保険の高齢者販売に関する苦情や問題点
  • 銀行窓販の経緯や問題点
  • 営業職員チャネルとの比較での乗合代理店と、直近の乗合代理店の動き(アフラック、オリックスの話が刺激的)
  • 「節税保険」
  • かんぽ生命問題

以下、これら各々について勝手に個人の考えを述べます。

1. 窓販と外貨建保険

実は僕はjustInCaseを開業する直前まで、かなりの割合で銀行窓販ビジネスに関わっていました。銀行で実際に渉外営業の方と一緒に顧客訪問したりしたことは残念ながら一度もありませんでしたが、僕が企画立案プロジェクトマネジメントして銀行の窓口で販売された保険商品は一応それなりにありました。

ですので、非常に思い入れもあるフィールドでもある一方、読んでいて耳が本当に痛いものでした。各社(保険会社も銀行も)、高齢者への販売には錯誤の上での契約を防止したり苦情を防止したりするため、かなりの社内規定が存在していたはずですが、この本に記載のあるようなトラブルはあとを経たないと聞いていました。僕は、そのような保険商品を作っていた経験があるというバイアスがあるものの、別に保険商品に貯蓄性コンポーネントがあるべきではないとか、この円の低金利の中外貨であっては意味がないなどとは思いませんが、非常に残念なトラブルが多く、背景には銀行が役務収益のために高コミッションの商品を販売せざるを得ないという事情があると考えています。フィンテックやRPAの自動化により、銀行や銀行職員を取り巻く環境も大きく変わりつつあります。銀行窓販もデジタルの力で変革されることが十分にあり得ると考えています。

2. 乗合代理店

アフラックの「単独推奨代理店」。つまり、(アフラックのみを扱う)専属代理店ではなく乗合代理店なのですが、特定の保険商品、例えばがん保険については、アフラックの商品のみを取り扱うことを内諾した代理店。これは本書にもありましたが、そもそもアフラックが実質独占的にがん保険を取り扱ってきた1996年までの歴史を考えれば、特段おかしなことではない、という考え方もあり得ます。代理店と保険会社という企業同士がお互いの合意に基づいてそのようなことを行うのは特段問題ないようにも思われます。要は消費者がどのように考えて乗合代理店に相談しに行っているかが最も重要なポイントで、もし「あらゆる種類のがん保険を比較検討して加入したい」と思っている方に取ってはそのような代理店は都合が悪い、ということになろうかと思います。結局は消費者の腹落ち感。

一方で、オリックス生命の「一社推奨加算手数料」、つまり、オリックス一社のみを推奨した場合に追加される販売手数料、にも触れられていました。流石にこれはこのご時世に金融当局の怒りを買ったようです。

保険業法1条にあるように、金融当局は顧客の保護を一番の目的としています。逆に言えばこれを常に考えられれば、多くのよくわからない細かい規制は不要とも考えられます。護送船団で横並びでなされてきたこともあるのでしょうが、依然として多くの事項がルールベースで、実態としてなかなかプリンシパルベースにならないのは、保険会社側がなんとしても規制の網をくぐってやろうとか、これだったら金融当局も怒らないはず、というような考え方を第一に持っているからであり、本来の一番重視すべき顧客の視点が無視されていることに起因すると深く思います。

3. 「節税保険」

ものすごく生々しく、かつ非常に詳細に、この2年間の「節税保険」をめぐる騒動の経緯が描かれています。大阪国税に関する日本生命のパンフレットへの記載など、(おそらく)他ではあまり書かれていない裏話や、そもそも節税保険のからくりを保険数理の仕組みを平易な言葉で書いてあり非常にわかりやすかったです。ここまで本件について詳細が書かれた一般の書籍を正直あまり知らないです。

ただ一方で、著者は節税保険についてかなりネガティブではありますが、僕はそこまでネガティブではありません。それ自体が良しとされるかどうかは別として、経営者としてタックスマネジメントについて幅広い選択肢を認識して必要に応じて実行することは大変重要なことです。そもそもここで言われる節税保険は節税というか「課税の繰延保険」です。それを完全に認識し、将来の損金と相殺するようなこと自体が経営の柔軟性として否定されるべきではないと考えています。

ちなみに、昔保険会社のM&Aのデューデリに関与している際、本件に関する税制の変更について、結構詳しく調べたことがありました。記憶ベースになりますが、これまでも本件の税制が大きく変わったことは何度もあり(それがイタチゴッコと呼ばれる由縁)ますが、過去に一度だけ、既契約まで遡及して税制が(契約者不利に)変更されたことがあります。今回の変更は遡及変更ではないようですが、とは言ってもこれまでのイタチゴッコに終止符を打つような変更であり、業界が震えたのは間違いありません…

4. かんぽ生命問題

本当にひどい。信じがたいひどさです。これについては別途ポスト予定です。

最後に、あとがきに印象的な引用がありました。

かんぽ問題について金融庁のある幹部が「極端な話だが」という前提で話してくれた言葉は印象的だ。「顧客の利益になっている保険業法違反の事例と、顧客の不利益になっている適法な事例がそれぞれ多数見つかった場合、後者の方を問題視する」

前々から僕が申し上げているのですが、保険業界は金融当局の顔を見て仕事をしている人が多すぎます。もっと顧客の方向を見て、やるべきことを行なっていけば、これまで作られてきた形骸化されている規制もよい方向に変化していくでしょうし、逆に言えばそのような志向の変化がなければ、無駄な(?)規制もどんどん増えていって自らの首を締めることになると強く思っています。

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