その1つの要因は、保険の性質上、なにか悪いことが起きたときに価値を発揮するということ。
且つ、その悪いことが起きるまでユーザーは保険料を払いっぱなしの状態、というところにある』というメッセージ。
今回は、この畑CEOの想いや、それらから事業に込めた狙いをより理解すべく、記者発表会やプレスリリースなどとは違う角度でインタビューを実施しました。
「みんながハッピーになれる仕組み」を考えていた
― 今、保険に対して持たれているマイナスなイメージを変えたい!という想いがあり、このわりかん保険を作ろうとなったのですね。
畑CEO(以下、畑):僕はもともと数学が好きで、数学を仕事で使えるような仕事に就きたくてアクチュアリーになりました。
新卒1年目のときに保険料の内訳を分解してみたことがあるのですが、納得はできたものの『でも少し高いかな…』と思う点がいくつかありました。
これがキッカケとなって、みんながハッピーになって安くする方法はないかとずっと考えていて、その解が「ユーザー同士でシェアをする」というもの。とはいえ単純な安売りではダメで。
安売りしたらユーザーは嬉しいけれども、それで保険会社が破綻してしまったら結果としてハッピーではないですよね。
せっかく保険の商品設計の仕事をしていたので、こうしたことをずっと考えていたんです。
保険加入後、保険とのタッチポイントの希薄化を解消したい
畑:これからは人口減少によるマーケットの縮小や、保険代理店の統廃合が進み、代理店にはより効率化が求められるようになります。
そうしたときにデジタルの力を使っていくと、どうしても保険サービス提供側(保険会社、保険代理店)とユーザーのタッチポイントが希薄になってしまいます。
生命保険は万一のときでないと使わないという特性があるので仕方ないことではありますが、だからこそよりインタラクティブになれないものか、ということをずっと考えています。
そのためには、1ヶ月に1回などと1年に1回以上のペースで、ユーザーが保険となにかしらのタッチポイントを持つことが必要です。
当社はこれまで計3つの商品(スマホ保険、レジャー保険、わりかん がん保険)を出していますが、全てこのコンセプトに基づき、ユーザーと保険とのタッチポイント重視で商品開発をしています。
正直、ここを追求すると収益性は期待できないこともありますが、その分タッチポイントが増え、ユーザーの保険への見方が変わってくると思うのです。
我々はそこに価値があると思っています。
なので、保険に加入したらその後はほったらかしという状況を作らない仕組みにしています。
今回のわりかん保険のように毎月支払う保険料が変わる仕組みなら、ユーザー自身で月に1回は保険料を確認するというアクションを起こすと思います。こういうことで保険とのタッチポイントを作ることがなぜなかったのか、と思っていますね。
他の業界で“当たり前”にやっていることを持ち込んだ
― 確かに、見える化されることで保険への関心が上がりそうです。
畑:クラウドファンディングのように人と人が助け合うものや、知らない人同士が助け合うCtoCのモデルなどがありますが、今回のわりかん保険は、こうした他の業界では当たり前に行われていることを保険に持ち込んだ形です。
例えばIT業界でいうと、MAU(=マンスリーアクティブユーザー)やWAU(=ウィークリーアクティブユーザー)を増やすということを重要指標にしています。我々は、ユーザーの保険への関心や見え方をプラスに変えていくためにタッチポイントを増やす。
タッチポイントを増やすためには日々ユーザーの動きを数値化して細かくみていかなければなりません。
こうした観点で保険を作っているのですが、これがとても楽しいんですよね。
保険業界は、このまま放っておいたら収益性は下がると思っています。付加保険料率は下げられ、火災保険料の値上がりがあるも収益性は低下。
また今後は、銀行業界のように機能別に規制がかかっていくことも予想されます。
かたや収入は安定していて、優秀な人材も集まっている、いわばインフラ的な立場にあります。
だからこそ、「ユーザーと保険のタッチポイントを増やす」ということをやっていかなければならないと思います。
たとえそれが、自分たちがやってきたことをディスラプトすることになったとしても、いずれはやらなければならないことです。
既存プレイヤーは、自己否定になったとしても保険の原点に戻ることが必要
― 長く保険業界にいる方々からすると、それを良しとして受け入れられない方々も一定数はいそうですね。
畑:そうだと思います。ただ、相互会社であろうが株式会社であろうが、「保険」と聞いたときに「助け合いの精神」や「透明性」を感じる生活者の方はなかなかいないと思っています。
このわりかん保険は保険の原点であり、新しい一つのカテゴリーとなる可能性があります。
業界の皆さまには言葉を返すようですが、『今まで自分たちがやってきたことを自己否定することになるかもしれないけど、今ここに参画しないことはリスクではないのでしょうか』ということを、今回参画していただいた提携パートナーさまにはお話させていただき、賛同していただけたことで晴れて歩みを始めることができました。
“払う”という行為を昇華させ、保険でワクワクさせたい!
― わりかん保険のシリーズを今後も出されるとして、なにかプラスの機能や仕組みがつく予定はありますか?
畑:サービスのローンチ前に、がんの罹患者の方やそのご家族の方と直接お話をする機会があり、わりかん保険についての率直な意見を頂きました。そのなかで、『このコンセプトであるならば、保険金請求した方が任意で直筆のサンキューメッセージを書いて、それを加入者の皆さんに公開することはどうか』といった前向きな意見を頂きました。
これはあくまでも頂いたご意見なのですが、こういう仕掛けがあれば“ただ保険料を支払っているだけ”“加入したらほったらかし”という感覚はなくなると思い、とても大きなヒントを頂きました。
実際、保険の原点は助け合いなので、払うという行為をもう少し昇華させて、小さいことでもいいので保険でワクワクさせられたらいいなと思いますね。
データ分析能力と動きの早さを活かしてスケールアップ
― 保険でワクワク、ですか!これからjustInCaseさんがなにを仕掛けてくるのか楽しみですね。
畑:こうしたことを話していると時々聞かれます、『なぜjustInCaseがやるのか?』と。
それは、我々にデータ分析能力があり、且つスピード感をもって事業を進めていくことができるからです。
しかし一方で少額短期保険という業種上、生命保険と比べて制約が多く、我々の力だけではこの想いを実現し、スケールアップさせていくことは限界があると思っています。
あくまでも構想ではありますが、ゆくゆくは保険会社さまに向けて数値分析や商品開発のノウハウ、さらには当社のシステムをご提供できたらなと考えています。
我々の作ったものを提供し、例えば医療保険や終身医療保険なんかを一緒に商品開発をしていけたらいいですね。ビジネス上は当社のシステムを使っていただくことで拡大していければ十分かなと考えています。
ちなみに、justInCaseのテック部分の開発分析を担う、別会社である株式会社justInCaseTechnologiesでは、justInCaseを立ち上げた後には、「生損保会社をイネーブルさせる」というミッションを掲げています。
さまざまな切り口で、ユーザーの抱える不安に応えたい
― justInCaseさんとしての今後の展望は、どのようなものを思い描いていますか?
畑:今後は保険を売る“以外”のサービス開発や連携も進めていきたいと思っています。
ここに関してはまさに今模索中でして、色々な切り口でサービスを展開していく予定です。
必ずしも一つひとつのサービスが繋がっていなくても、それぞれに「生活者が保険とのタッチポイントを増やす」という軸があればいいと思っています。
例えるなら、保険と相性のいい家計簿アプリの提供がイメージしやすいかと思います。
生活者にとって便利で新しいサービスを提供し、彼らが抱える不安に応えていきたいです。
ビジネスモデルはあくまでも「B to B to C」の形
畑:新しいサービスは自社で作る場合もあれば、他社さんのサービスとAPI連携をするという方法も十分考えられます。
先ほども言ったように、少額短期保険ということで少なからず制約もあり、幅広い生活者にサービスを届けようと思うと莫大な広告費を投下しなければならず、我々のチカラだけでは限界があります。
だからこそ我々は「B to B to Cのビジネスモデル」をとっています。
日々、お客さまとコミュニケーションを取られている保険営業の皆さんに、我々のサービスを提供し、それを通して目の前のお客さまが抱えている不安に応えていただく。
こうした取り組みが広がれば、これまで保険に関心がなかったり、保険に良いイメージを持てなかった生活者からの見方が変わると思うんです。
だから、彼らと保険とのそもそもの接点を増やしていきたい、そのためには業界の第一線で活躍されている皆さまのチカラをお借りしたいです。
逆に、皆さまには我々のサービスをうまく利用していただいて、お客さまとのコミュニケーションが活発になるキッカケになればいいなと思いますね。
最後に余談ですが、今後は保険業界で働いている方を積極的に仲間に迎え入れていきたいと思っています。
変化バイアスがない方というのがマストになりますが、「保険のタッチポイントを増やす」ということに共感していただいて、新しいことにワクワクして働いてくれる方と今後のサービスを作っていきたいですね。
「話題のP2P保険の真実― 業界の第一線で活躍しているプレイヤーがいるからこそ広められる