設立から5周年を迎えた少額短期保険のjustInCaseと、その保険システム開発を担うjustInCase Technologiesは、2020年1月に日本初のP2P保険「わりかん がん保険」をリリースし話題に。その後、1ヶ月という超短期間で開発を行い「コロナ助け合い保険」を5月にリリース。
justInCaseグループは、こうしたスピーディーかつ革新的な商品の開発・提供体制を強みとしています。
2021年は小休止されていた保険商品のリリースは、今年にも再開予定。どのような新商品が世に出るのか、ますます期待が高まります。
そんな今年節目を迎えるjustInCaseグループについて、「革新的でスピーディーな商品開発はいかにして可能なのか」を紐解くべく、CPO渡辺氏とCTO大畑氏を取材。
わりかん保険や、1ヶ月で開発・リリースを成し遂げた「コロナ助け合い保険」の開発の裏話や、justInCaseグループの強みについて伺いました。
(モデレーター: justInCaseグループPR寺尾なつみ氏)
Talk 1|全員が当事者意識をもって開発に挑んだ、日本初のP2P保険
――これまで世になかった保険を出すにあたり、商品設計や開発の体制について、どのように進められたのでしょうか。
渡辺氏:私は商品の設計や折衝の部分から携わっていました。その段階から、「どういう約款や取り決めであればシンプルなシステムになるのか、そのためにはどういうオペレーションが必要か」ということを考えていました。
CEOの畑にはやりたいことがたくさんあって、『こんなんできたらええんとちゃいます!?』という意見をバンバン出してくれるんですけど、やりたいことを挙げている段階で、それらを全て叶えたときのオペレーションコストや開発コストがどれだけかかるのかがみえるので、実現させるのは大変だな…という案は削ぎ落とすこともありましたね(笑)
このように、商品設計の段階でどのようなシステムを構築したらいいのかということも考えながらやる保険会社は少ないと思います。
もちろん、商品開発においては関係各部署でコストを試算するという進め方もあると思いますが、我々の場合は、商品を作る人自身がオペレーションやシステムのことを考えるというやり方をしており、これはjustInCaseならではだと思います。
わりかん保険はまだまだ進化する保険
渡辺氏:わりかん保険の商品コンセプトの面でいうと、通常の保険と違って、顧客に月に1回メールを送ったり、LINEで支払いのお知らせを送るなど、「顧客とのコミュニケーションを活発にしたい」というところに重きを置いています。
当社が「ただ保険を売る」というスタンスであれば、手間もコストもかかるので諦めると思いますし、営業的に考えても、顧客コミュニケーションの要素を入れることが、収入保険料や支払保険料にどの程度の影響があるのかは見積れない領域です。
ロジカルに考えると要らないと判断しカットされたでしょう。
しかし、商品に対する想いの部分で、この商品をどうやって世の中に広めるか、こんなことをしたら契約者や世の中に金銭的価値以外のインパクトを与えられるのではないかということも考えています。
普通の保険のオペレーションにないものを取り入れていくのは正直すごく大変ですが、やりたいことなので、どこまでできるかを社内で議論し、これならできる・進められるということで今の形に落ち着いています。
わりかん保険は初めから「こうである」と厳格に決まっておらず、始めはすごく漠然としたイメージからスタートしました。
こういうことがしたい、こんなコミュニケーションがとりたいというものを少しずつ付け足していき、まずやってみて、ある程度の型ができたら、もう少し効率化できるようにオペレーションやシステムに落としていく…ということをやっていき、結果として今の形になっていますね。
開発体制において、当社はアジャイル開発を取り入れていますが、こういうやり方はまさにアジャイル開発でないと実現できないことかと思います。
寺尾氏:PRの私やCSチームなどにも「こう変えていきたい」というものがあり、それがどんどん出てくる商品がわりかん保険で、私たちが進化する限り完成はないなと感じています。
また、わりかん保険は従来の保険と比べると、ある種”保険ではないプロダクト”にもなり得ます。
それをいかに保険の形にすることができるのかがデジタルネイティブの当社だから、かつ、渡辺のような保険商品の設計もシステムも分かる人材がいるからこそ、実現できていると思います。
相手の「領域」に攻め込む積極的な姿勢が新たな気付きを生む
渡辺氏:実際にシステム開発が始まると、エンジニアたちも業務オペレーションのことを考えながら開発を進めてくれていました。
例えば、『AをやるとBができなくなるが本当にこれでいいのか?そもそもCが足りていないのでは?』などと、客観的に業務オペレーションのことを整理しつつ、懸念点があるとすぐに投げかけてくれ、エンジニアが保険業務について良い意味で口を挟んでくれるんです。
これが当社のやり方でもあるのですが、1つのチームのなかで個々人が自分の作業領域にバリアを張るのではなく、相手の領域に多少攻め込んでくる勢いで確認をしたり、本当にこれでいいのかとゼロベースで考えるやり方をしています。
そうすると、本来業務オペレーションを考える役割のメンバーが、『そういう風に変えれば効率化できるのか…!』と気付かされることが多々あります。
これまで世にない保険を作っているからこそ、こうしたやり取りがあることで、よりオペレーションが洗練されます。
保険業務のオペレーションを担当する人たちと、システムを作る人たちの会話や指摘のし合い、活発な議論が効率化に繋がっていると思っています。
開発部門のトップである大畑さんは、その辺りをどう思われていますか?
大畑氏:渡辺が、“どういう約款であればシステムに落としやすいのか”ということを考えながら設計しているというのは常々感じています。
わりかん保険だと具体例に挙げにくいので、「Pontaかんたん保険」でのエピソードになるのですが、Pontaかんたん保険ではケガの保険を提供しており、色々な特約を上手く組み合わせることで複数のプランを作っています。
2019年の12月の時点で翌年3月のリリースに向けて準備をしていたのですが、その最中で、翌年4月に「自転車保険の加入義務化」が定められることが決まり、自転車保険も追加しようとなったんです。
エンジニアとしては“0から商品を作るのは大変なのでは…”と内心ヒヤッとしたのですが、そこで渡辺が既にある特約(保障)を上手く組み合わせた設計をしてくれました。
その結果、そのとき旬だった自転車保険をラインナップに入れて当初のリリースに間に合わせることができ、こうした動きができるのもjustInCaseならではだと思いました。
寺尾氏:それができるのはアクチュアリーの資格を持ちつつエンジニアでもある、保険ドメインの責任者の渡辺の存在があるから、ということが大前提になっていますよね。
大畑氏:「システム分野」と「保険業務分野」の両方をみたうえで全体最適の方針を示してくれるので、すごく心強いと感じています。
例えば、あるシステム移行プロジェクトでは、データを完全に移行するためにはお客さまの操作が必要であり、その対応に悩むことがありました。
お客さまがうまく操作できない可能性もあり、CSへの問い合わせで対応するか、エンジニアが時間をかけて完全に自動化をすべきかの議論になったんです。
関係者でそれぞれの選択肢の情報整理をするものの結論が出ませんでしたが、最後は渡辺が両方の視点から方針を後押ししてくれました。
Talk 2|コロナ助け合い保険を1ヶ月で開発・リリースを実現できたワケ
――1ヶ月で開発・リリースされたということで、業界内ではかなり話題になり注目が集まりましたが、その裏側を教えてください。
大畑氏:先ほど話したPontaかんたん保険を2020年3月26日にリリースし、そのすぐ後に「コロナ助け合い保険」をリリースしました。
実は、コロナ助け合い保険を開発する前に、Pontaかんたん保険と並行して他の医療保険を開発していました。
それは後に「歩くとおトク保険」としてリリースするのですが、三大疾病や五大疾病、その他の病気などによる入院に一時金が支払われ、歩数によって保険料が割り引く仕組みも取り入れていました。
新型コロナが本格的に流行り出したなかで、『コロナに感染して入院した人への保険が今の世の中に求められているのではないか』という話が挙がり、商品を出すことになりました。
肝心の商品内容を考えていたときに、医療保険(歩くとおトク保険)の入院保障の一部を使えばできるのではないかと渡辺が提案してくれ、それならば今の体制でも1ヶ月あればリリースができるということで、本格的に準備が始まりました。
元々あった医療保険の保障の一部を基に設計したこともそうですが、一番は当社がアジャイル開発の体制をとっていて、保険の専門家、エンジニア、デザイナーが1つのチームで動いていたので、1ヶ月という異例の短期間でのリリースができました。
具体的には、お客さまの要望や時代の流れに対してチーム内で会話をし、お互いにフィードバックをし合いながらどんどん作っていけたことや、『ここはこういう文言にしたほうがいいよね』『約款のここの意味はこうですか?』と、デザイナーが自ら確認して理解したうえでデザインに落とし込んだり、PRの立場からもデザインの意見を出したりと、職種を超えてコミュニケーションをとりながら作っていきました。
渡辺氏:僕は当時、『2週間でリリースしたい』と言ったんですが、さすがにそれは厳しいとなりました(笑)
いろいろな保障を豊富に付けるよりは分かりやすくして、伝えたいメッセージが伝わるような内容にすることを重点に置いて、チームで準備を進めましたね。
急な変更はむしろ歓迎!?柔軟な開発チーム体制が要に
大畑氏:アジャイル開発の特徴の1つに「計画の変更を歓迎する・受け入れる」というものがあります。
コロナ助け合い保険を作ろうとなったときは、もちろん他のプロジェクトも動いていたのですが、会社としてあらゆるプロジェクトよりもこの開発を優先することを決め、みんながそれを受け入れました。急な変更が生じても切り替えることが重要です。
また、アジャイル開発におけるプロセスには、振り返りの場やフィードバックをもらうレビューの場などが組み込まれています。
例えば1週間で行う作業内容を”チーム全体で”確認し、進捗確認や困っていることなどのコミュニケーションを毎日とって、会話のキッカケを作ります。
この資料見ておいてね、分からないことは聞いてね、というやり方だとなかなか上手くいきません。
アジャイル開発特有の密なコミュニケーションがとれたことも、1ヶ月での開発が実現した要因だと思います。
寺尾氏:商品開発の後は、これをいかに伝えるかが課題としてあり、商品の申込ページのデザインやメッセージを1ヶ月で仕上げるのは大変でしたね。
大規模な組織だと意思決定までに時間がかかりがちですが、そういうことがないので無事に間に合わせることができました。
どうやって進めていくかということを部署や立場関係なくやっていくこと自体がアジャイルで、私たちはそれがネイティブにできていることを実感しました。
――アジャイル開発の特徴にもある「コミュニケーションが活発」ということが、メンバー間の衝突を生んだりすることはなかったのでしょうか。
渡辺氏:衝突したことは多々ありました。商品を出し、契約者が増えると問い合わせの量も増えてくるのですが、その当時のメンバー数は会社全体で10名ほど、顧客対応部門は2~3名と、とても少なかったんです。
そのなかで「少ない人数ながらも目先でできることをやりたい」という意見と、「まずは問い合わせへの返信など最低限のことをやるべき」という意見がぶつかったことがあります。
しかし我々はあくまでも保険会社。細かい改善も大事ですが、顧客のためになること、求められていることをまずやろうとなりました。
寺尾氏:スタートアップはキャッチーなことに走りがちですが、それは基本があってのことという、地に足をつけた考えや仕事ができています。
渡辺のように経験があって、意見を聞き入れつつあるべき方向に導いてくれる人がいるからこそ、革新的なこともするけど基礎もしっかりしているというのは強みですね。
――経験豊富な人もいれば、知識がなくても強い積極性をもつ人もいたりと、刺激的な環境だからこそ、絶えず新しいことに挑戦できているのだと感じました。
大畑氏:渡辺の他にも、テクノロジーの力で「良い保険商品を作りたい」「多くの人に必要な保険を届けたい」「保険金請求の体験を変えたい」など、アツい想いをもった保険業界出身のメンバーがいます。
デジタルネイティブな保険会社としてやっていくうえで、こうした人材に囲まれているというのは、いち開発者としてもすごく恵まれていると感じています。
寺尾氏:私たちは保険を変えていくのではなく、保険を通じて「社会」を変えていくということを目指しています。
「助けられ、助ける喜びを、すべての人へ」というビジョンに共感してくれるメンバーと共に、大きな組織になっても全員が当事者意識を持ち、「助け合い」を広げるための保険業界へと挑戦を進めていきます。
INSURANCE JOURNAL 2022年2月10日公開記事
「職種の垣根を超えてスクラムを組む―スピーディーに革新的な保険を生み出す秘訣」より転載
(https://www.ins-journal.com/article/view/21250)
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